今生、もう二度と会えないんだね ④
夜 布団に入る直前
フワッと ダンナの病室の匂いがした
？ ？ ？
お風呂入ったし パジャマだし なんでだろ
ま いいや 寝よ
朝は ５時前に起床
外はまだ真っ暗
洗濯機かけながら 子供達のお弁当作り
今日も寒そうだ
ピー ピー ピー 洗濯おわったみたい
今日もたくさん干すものあるなー
お天気 悪そうだし
カラッと乾かないと いやなんだよねー
ひとり言をブツブツ言いながら 洗濯物を干す
しーんとした部屋の中を 電話の音が鳴り響いた
〝ギュッ〟
私の心臓が 縮みあがった
「〇〇病院です ご主人の 下顎呼吸が始まりました
もって1〜2時間なので こちらに向かって下さい」
ついに この日が来た
昨夜の 寝る前の匂い
ああそうか
〝そろそろだよ〟 って教えたんだね
子供達をたたき起こした
「病院から電話が来たよ パパのところに行こう」
ダンナの両親にも連絡した
大丈夫 間に合う
ダンナはきっと 待ってくれる
まだ６時前 暗い
頬がピリピリするほど 寒い
子供達にお弁当を持たせ 車に乗り込み
まだ空いている道路を 飛ばした
途中 誰ひとり泣かない
心の準備が出来ていたとはいえ
落ち着いたもんだ
不気味なほど 静かな病院
パタパタと 三人の足音だけが
廊下に響いた
薄暗いダンナの病室
あの匂いだ
酸素マスクを着けて
ダンナは 顎を上下させながら
一生懸命に 呼吸をしていた
間に合った
「パパ 来たよ」
意識は無い
荷物を置いて
ダンナの右手を 両手で強く握った
やわらかくて とても暖かい
もう 本当に 本当に これが最期なんだ
腑に落ちた瞬間
涙がどっと 溢れ出た
絞り出すような声で 静かに泣いた
子供達も 静かに泣いていた
ダンナに近寄ってこない
「手を握ってあげて あんた達を抱っこしてくれた手を」
やっと近づいてきて 二人はダンナの手を握った
30分くらい 経ったのか
ダンナの呼吸が ゆっくり ゆっくり になった
上下する顎の動きも小さくなっていく
ちゃんと 見届けるよ
止まった
「お疲れ様でした よく頑張りました」
声をかけた
病室の上の方を くまなく見た
ほら よく言うじゃない
身体から抜け出た魂が 上から様子を見てるって
でも 何も見えない
看護師さんと 当直の医師が 駆けつける
ドラマでよく見る あの場面
「ご臨終です」
はい 分かってます
亡くなる瞬間まで
ずーーっと見ていましたから
結局 ダンナの両親は間に合わなかった
朝早くから 二人を車に乗せて来てくれた
義父の弟さんが 憤慨気味だった
ダンナの両親は 私が連絡した後
息子が楽に逝けるようにと 仏壇に向かって
大声で お経をあげていたため
迎えに来てくれた 弟さんに気付かず
寒い外で 暫く待たせてしまったらしい
アホか
自分達の息子だろうが
車の中で お経あげればいいじゃない
死に目に会えなかったじゃないか
ダンナの両親は とある宗教に ドップリだ
ダンナの位牌もいらないと 言い出した
そんなん 知るか！ 作るわ！
ダンナが入院中も ほとんど見舞いに来なかった
見兼ねた弟さん夫婦が 強引に連れて来てくれてた
これから この二人を私が見るのか
ハァ‥‥
子供達にお弁当を食べさせ
ある程度 親族のお別れが出来たところで
そこからは 看護師さん達の流れ作業
とっとと部屋を片付けたいらしい
病院は これから忙しい時間帯だもんね
部屋の荷物を全部 車に移動
地下の綺麗な霊安室で 葬儀社の挨拶
遺体を葬儀社の車に移動
病院側にお礼の挨拶をして 葬儀社に向かった
もうすっかり 夜は明けている
道路も渋滞気味で いつもの日常
久しぶりに うんと泣いたので 頭が痛い
空は どんより 曇り空
今の気分には ちょうどいいのかも
続きは〝今生、もう二度と会えないんだね ⑤〟で😊
